「化学物質を減らさなければ 病気は減らない」

平田肛門科医院 院長
平田雅彦先生

1953年、東京に生まれる。81年、筑波大学医学専門学群卒業。82年、慶應義塾大学医学部外科教室に入る。その後、一般外科をへて大腸肛門病の専門医への道を志す。85年、社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、専門医としての豊富な臨床経験を積む。現在、1935年開院の平田肛門科医院の3代目院長。先代院長・平田洋三氏の「患者さん本位の親切医療」精神を引き継ぎ、最新の医療技術とともに心身両面の生活指導を通して、患者さんが本来持つ自己治癒力を最大限に引き出そうと努力している。ヘアカラーの害に警鐘を鳴らす講演なども行なっている。近著に『痔の最新治療__可能な限り切らずに治す』『新・痔は切らずに治る』(どちらも主婦の友社)などがある。

[平田肛門科医院] http://www.dr-hips.com
東京都港区南青山5-15-1 TEL 03-3400-3685

|パーマ液の成分を知る

パーマ液はこわい。

そんなことを考えたことがある方は、どれほどいらっしゃるでしょうか。それほど多くは、いらっしゃらないかもしれません。

パーマ液には1液と2液があります。1液の主成分 は、便器の黄ばみを落とす洗浄・除菌剤と同じ、チオ グリコール酸。トイレ掃除のときに、ゴム手袋などをして、液がつかないように気をつけながら使うものを、 髪につけているのです。2液に使用する薬剤には、除草効果があります。除草効果のあるものを頭に載せて 危険がないわけがありません。中枢神経系や腎臓に対して刺激が強く、麻痺やけいれん、腎機能障害を引き 起こす恐れもあります。

パーマ液を日常的に扱う美容師さんの手荒れは、職 業病として問題になっています。

これらの液を、使用後そのまま下水道に流していることも問題です。もし、同じような薬剤を病院で使用した場合は、そのまま排水溝に流すことができない薬剤です。医療業界では当たり前のことですが、薬品や 材料の取り扱いはとても厳しいのです。次に厳しいのは食品業界です。美容業界にも同様な厳しさが求められるべきだと思います。

|美容師の手荒れの原因

パーマ液だけでなく、ケミカルのヘアカラーも安全ではありません 。 酸化染毛剤の主成分PPD( パ ラ フ ェ ニレンジアミン)は、スプーン1杯を飲むと死に至る毒性の強い化学物質です。

PPDは付着した皮膚を侵すだけでなく、皮膚を通過 してリンパ液や血液に、または吸い込むことで肺から 血液に入り、全身に回って再生不良性貧血などの病気 を引き起こすことが指摘されています。強いアレルギー反応を引き起こす可能性のある物質も入っており、ア ナフィラキシーショック死の危険もあります(※1)。発 ガン性物質も指摘され、20 年以上毛染めを続けている人は、リンパ腫の発症率が高いとも言われています。

また、比較的安全と思われているヘアマニキュアも 発ガン性物質のタール系色素が含まれ、体内に入ると アレルギーを起こす場合があります。

消費者庁へのヘアカラーによる被害相談は、平成21 年からの5年間で1000件以上にのぼりました。最も危 険なのは子どものヘアカラーです。子どもは皮膚が弱く、免疫力が完成されていませんので、大人よりも被 害が大きく、腎機能が低下した子どももいます。東京都は「日本ヘアカラー工業会」に対して、全商品に幼少児使用禁止の注意書きをつけるように要望しました。

※1 (編集部注)消費者安全委員会が2015(平成27)年10月、ヘアカラーで起こるアレルギーなどの皮膚障害に関する事故報告書を公表。2014(平成26)年までの5年間で1000件超の被害相談事例が寄せられ、うち170件は全治1か月以上の重症だった。髪が抜け落ちたり、耳や指先など広範囲に炎症が広がるケースもあった。消費者庁のホームページでは、1回目のアレルギー症状が軽かったとしても、治ったあとに再度使用すると、次第に症状が重くなる場合があると注意を促している。

|皮膚のバリアを通り抜けて体内に

パーマ液やケミカルのヘアカラー、さらにシャンプーなどの薬剤には、薬剤が体内に侵入するのを助ける働 きのある化学物質の合成界面活性剤が含まれていま す。本来、皮膚には異物の侵入を防ぐバリア機能があ り、化学物質も簡単には入れないようになっています。 しかし、合成界面活性剤が皮膚のバリアを壊し、有害なものが体に入りやすくなってしまうのです。

もともと合成界面活性剤は、薬剤が配合されたテー プを皮膚に貼り付けるタイプの治療薬「貼付薬」に使用されていました。狭心症や喘息の治療に皮膚に貼って 使用する薬や、禁煙のためのニコチンパッチなどが貼付薬です。経皮吸収の特性を利用して、薬剤の作用を 効果的に発揮しました。皮膚から薬剤の作用を効果的 に吸収してもらうためのものです。医薬品として適量 を適切な期間、処方するのならばともかく、日用品として毎日使うのには問題があります。

口から入った化学物質は、肝臓の働きで90%以上 が解毒分解されますが、皮膚から入った場合の排出量は10日後でもわずか10%にもなりません。皮下の脂 肪組織に蓄積されたあと、徐々にリンパ液や血液に乗って、全身に運ばれます。

|環境ホルモンを減らす

化学物質が減らない限り、病気は減らない。

私は、そう考えています。しかし、私たちのまわりには、化学物質がものすごいスピードで増えています。「環境ホルモン」の問題は深刻です。環境ホルモンは、 特定の物質を指す言葉ではありません。環境中に存在 する化学物質の中に、生体内で営まれている正常なホ ルモン機能をかく乱してしまう物質があることがわか り、そのような作用をするものを環境ホルモンと呼ぶ ようになりました。科学的には「外因性内分泌攪乱物質」という名称が使われています。

私たちは、自分自身の体の中で作るホルモン(甲状腺や膵臓、副腎、脳下垂体、精巣、卵巣などから分泌され、微量で作用する体内の「情報伝達物質」)で、 体を調整(器官の働きを適正に調節)しています。環境ホルモンは、生体に対してホルモン作用を起こすか、 あるいはホルモン作用を阻害します。このことが、体の不調や病気を引き起こすと考えられます。

化粧品、プラスチック容器、殺虫剤、医薬品などは 化学物質からできています。農薬なども化学物質です。 これらの化学物質には、環境ホルモンが存在している可能性のあるものもあります。

|20~40代の女性に多く蓄積

また、塩素を含むゴミを燃やすことによって発生する気体の中や、有機塩素系化合物を製造する過程で生成される「ダイオキシン類」は、毒性の高い化学物質として恐れられると同時に、環境ホルモンとしての作用も疑われています。

多くの化学物質には、程度の差はありますが、何らかの有害性があります。すでにその危険性が明らかになっているものもありますが、どの化学物質が環境ホルモンなのか、どんな危険性があるのか、まだまだ解明されていないことが多く、調査が進められています。

現在わかっているだけでも、母親の体内にいる胎児の生殖系に影響をあたえること、それも尿道下裂など出生時に気づくものだけでなく、精子の減少、前立腺ガンなど成人になってわかるものがあります。

アメリカのシーア・コルボ ーン博士(1927–2014) の 研究では 、環境ホルモンによる化学物質は、20代~40代の女性に多く蓄積されていると指摘されていま す。赤ちゃんを生み、育てる世代の女性が、もっとも環境ホルモンを蓄積してしまっているのは問題です。男性よりもなぜ女性が多いのか。コルボーン博士によれば、それは恐らく、化粧品、シャンプー、パーマ液 の影響ではないかとのことです。

|今の半分に減らすことを目標に

シャンプーやリンスには、台所洗剤よりもたくさんの 化学物質が含まれています。川や海に流された化学物 質は、まずプランクトンなどの小さな生物の命を脅か し、そこから食物連鎖の生態系のレールに乗って動植 物全体に影響を及ぼします。野生生物の一部にオスの メス化がみられる、などの報告もされています。

43 億年間ずっと地球に存在せず、たかだか 70 ~ 80 年前に人類が作り上げた化学物質が、人類だけでなく、他の生物までも滅ぼす可能性があります。化学物質に 助けられている部分もあります。全否定することはでき ません。でも、必要以上に増やさず、減らせるものは 減らすよう努力しなければなりません。

現在は、1964(昭和 39)年の東京オリンピックの頃 より約2倍もの化学物質に囲まれています。せめてその頃の量に戻すことができたらと考えます。リサイクル率を高 め る 、使用後に土に戻る素材など有毒物質発生0に取り組む、薬剤の量を減らしても同様の効果をもつ技術の研究など、企業や自治体も努力を始めていま す 。 消費者も簡単や便利ばかりを追い求めるのではなく、環境にやさしい製品を選ぶ、調味料やビールはガラス瓶でリサイクルをするなど、できることから取り組んでいく、このことが大切なのではと思います。


「体の声を聞く力を取り戻してほしい」
助産院『町のさんばさん』院長・助産師 川野敦子先生